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机上のLumenを囲んで会話する3人
健康・美

「わかっているけど続かない」を変える。「Lumen」とキリングループが挑む、一人ひとりに寄り添うヘルスケア

  • 健康サービス
机上のLumenを囲んで会話する3人

わかっているのに、続けられない——。多くの人が直面するこの健康の課題に対して、キリングループはどう向き合うのか。その問いへの一つの答えが、呼気情報から代謝の状態を可視化するウェルネスデバイス「Lumen(ルーメン)」の日本展開です。

開発元であるスタートアップ企業との共創により、キリングループは「一人ひとりの行動変容に寄り添う」ヘルスケアへと踏み出そうとしています。プロジェクトに関わる3人に、この挑戦の裏側と目指す未来を聞きました。

金子 裕司(かねこ・ゆうじ)

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス経営企画部 新事業開拓室 主査 Lumen事業責任者

機能性素材・食品の研究開発に携わり、キリン独自素材「熟成ホップエキス」の研究・開発や「キリン カラダFREE」の商品化を担当。その後、社内ベンチャーINHOPの立ち上げを経て、現在はヘルスサイエンス領域の新規事業開発に取り組む。2025年、文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞。技術士(農業部門)。

津川 翔(つがわ・しょう)

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス経営企画部 新事業開拓室 室長

キリンビール株式会社入社後、酒類営業、中国赴任、海外事業戦略などを経験。その後、CVC設立メンバーとしてスタートアップとの協業やオープンイノベーションを推進。そのなかで「Lumen」への投資を手掛ける。現在は新事業開拓室長として、社内外の技術やアイデアをつなぎ、新たな事業や価値の創出に取り組む。

閻 珒(えん・しん)

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス経営企画部 新事業開拓室 主務

調達部でモルトやホップなどの原材料調達、海外サプライヤーとの協働に携わった後、現職へ。現在は新規事業の創出やスタートアップとの協業に取り組み、Lumenの日本展開にも参画。社内外の多様なステークホルダーと連携しながら、新たな事業づくりを進めている。

「見える化」だけでは、生活習慣は変わらない

現代社会には健康に関する情報が溢れています。皆さんは現在の生活者が抱える健康課題をどのように捉えていますか

津川

一番の課題は「わかっているのに続かない」という、知識と実践の間にあるギャップだと考えています。今の時代、健康に良いことや適切な生活習慣についての情報は誰でも簡単に調べられます。でも、それを実際に日常の中で続けるのって、決して簡単じゃない。継続や維持が大事だって頭ではわかっているんです。でも日々の忙しさの中で、結局後回しになってしまう。このギャップが、今の一番大きな課題だと思うんですよね。

情報が増えたからこそ、選びきれなくなっているという側面もあるのでしょうか。

津川

まさにそうです。情報や選択肢が多すぎるがゆえに、「結局、今の自分には何が合うのか」を探し当てることが難しくなっています。だからこそ、一律の健康法を提示するのではなく、一人ひとりの状態に合わせたアプローチの「個別化」が求められていると感じています。

机の上のLumenを説明する津川翔、それを聞く金子裕司

金子

生活者の声を聞いていても、自分の状態を知って可視化するところまでは、今のテクノロジーでもうできるんです。でも、「じゃあ今日から自分は何をすればいいの?」という次の一歩の提案が、やっぱり足りていない。選択肢が多すぎる中で、次に踏み出すべき一歩がわからないと、結局モチベーションが途切れて継続を諦めてしまう悪循環に陥ってしまうんですよね。

最近はスマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブル端末でデータを取る人も増えていますが、それだけでは足りないということですか?

金子

測定してデータを蓄積すること自体には、もちろん大きな価値があります。ただ、過去の数値を「記録(ログ)」として眺めるだけでは、自分の行動を変える強いきっかけには、正直なりにくいんですよね。可視化されたデータに対して「昨日こういう過ごし方をしたから、今日の体はこうなっているんだ」と自分の中で意味付けを行い、次の適切な選択肢へつなげていく仕組みがあって初めて、行動を起こせるんだと思います。

Lumenを握りながら会話する金子裕司

2026年4月に、今の部署へ着任された閻さんは、事業開発を進める中でどのような課題意識を持たれましたか?

閻

私は以前、調達部門におり、「もっとお客様に近いところで、生活を変える事業をやりたい」と手を挙げてこの部署に異動してきました。そこで痛感したのが、「良い成分が入った良い商品や、正しい情報を提供するだけでは、人の健康行動は変わらない」という壁です。どんなに優れた商品を作っても、生活者が日常のどのタイミングでどう自分ごと化し、習慣にしていくかという「体験の設計」が抜け落ちていると、本当の意味でお客様の生活は豊かにならないんです。その行動変容をどう起こすかという議論を、チーム全体で徹底的に行っていることがすごく印象的でしたね。

金子

キリングループは2019年からグループの重要な領域としてヘルスサイエンス事業へ本格的に注力し始めていますが、我慢や努力、強い意思の力だけに頼る健康って、正直長続きしないんですよ。実は私自身、子どもの頃は体があまり強くなくて、親が食事や栄養にすごく気を配ってくれていたんです。子どもの頃からサプリメントを摂っていたこともあって、「食を通じて人の体は変わる」という実感が、原体験としてずっとあります。だからこそ、我慢や根性ではなく、食や生活習慣を通じて自然に健康になれる方法を、ずっと考え続けてきたんですよね。

そういう思いもあって、科学やデータを活用しながら、一人ひとりが無理なく自分に合った健康習慣を見つけ、自然と続けられる世界を目指したいと思っているんです。そのためには、ただ商品や端末を届けるだけでなく、生活者の日常に寄り添った行動変容のきっかけを提供していく必要があると思うんです。

なぜ「Lumen」だったのか

机に置かれたLumen

そうした課題意識の中で出合ったのが、ウェルネスデバイス「Lumen」ですね。改めてどのようなサービスなのか教えてください。

金子

「Lumen」は、息を吹き込むことで呼気情報から現在のコンディションを1〜5段階の独自スコアで可視化し、日々の食事や運動、休息などの生活習慣を振り返るきっかけを提供するウェルネスデバイスです。最大の特徴は、ただデータを記録するだけでなく、糖質や脂質のどちらが体内で優位に燃焼されているかという変化をその場で表示し、「じゃあ今日はどう過ごすべきか」という具体的なアクションをアプリを通じて提案してくれる点にあります。

※本製品による測定は、医療での使用を目的としたものではありません。
※本製品に付随するプログラムは、疾病の診断、治療または予防を目的としたものではありません。

体重や体脂肪率といった従来の数値とは、何が違うのでしょうか?

金子

体重や体脂肪率は、運動や食事制限を始めても変化が表れるまでに数週間〜数カ月といった時間がかかります。だから、途中で効果が見えずに挫折してしまう方が多い。しかし、「Lumen」が表示する指標は、前日の食事の時間帯や睡眠、運動といった日々の過ごし方に反応してリアルタイムに変化します。「昨日の意識的な過ごし方が、今日の良いコンディションにつながっている」という実感がその日のうちに得られるため、日々の生活習慣を前向きに振り返るモチベーションになるんです。

閻

社内でも実際にテスト機を使っているのですが、私自身の生活も大きく変わりました。以前は新しい健康情報を見つけては飛びついて試すものの、なかなか習慣化できないタイプだったんです(笑)。だけど、「Lumen」を使い始めてから生活習慣がガラリと変わりました。毎朝息を吹き込んで自分の指標を確認するのですが、スコアの理由を探って「昨晩ちょっと睡眠不足だったな」とか、「遅い時間にお菓子を食べてしまったな」といったように、自分の行動を自然と振り返るようになったんです。実は私、お酒が好きでよく晩酌するんですが、朝の測定でより良いスコアを出したいというワクワク感から、夕食の糖質量を控えめにしたり、食事の時間を早めたり、晩酌をノンアルコール飲料に替えたりするなど、さまざまな工夫をしてみました。すると翌朝の指標が見事に変化していって、正直驚きました。

「こんなにわかりやすく結果に表れるんだ」と実感でき、自分の生活習慣が日々の測定結果に反映される面白さを感じました。無理やりお酒を我慢しているわけではなく、良いスコアを出したいという前向きな気持ちで続けられています。

※結果には個人差があります。

Lumenのマウスピースをくわえて呼気計測
スマホに表示される指示に従って代謝スコアを計測

津川

社内でも有志でコミュニティを作って「Lumen」を使っているのですが、閻(えん)さんはいつも素晴らしい代謝スコアを出していて「どうやってその状態を維持してるの?」と会話が弾んでいます(笑)。ただ数値を見るだけでなく、ユーザー同士で「昨日これやったからかな」と内省し、共有し合えるコミュニティも育みやすいのかもしれません。それもあると継続を支える大きな要素になるなと実感しています。

「新技術×キリングループ」が創り出すヘルスケアの未来

窓を背にLumenを片手に持ちながら語る津川翔

今回の「Lumen」の国内展開は、キリングループのコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)から生まれました。数ある海外のスタートアップの中で、なぜ「Lumen」に着目されたのでしょうか?

津川

私たちのCVCは年間1,000件以上のスタートアップを評価し、キリングループとのオープンイノベーションを推進しています。その中で「Lumen」を手がけるスタートアップに対しては2023年から出資を行ってきました。決め手となったのは「独自の科学的根拠が裏側にあること」と、「北米市場で多くのお客様に支持され、使い続けられている実績があったこと」です。健康領域にはさまざまなプロダクトが存在しますが、「Lumen」にはユーザーが自発的に行動を変え、楽しみながら継続できる強い体験設計がありました。キリングループのCVCとしても、海外の先進的なヘルステックデバイスを自社の新事業として国内展開するのは今回が初の挑戦になります。

スタートアップ企業のメンバーと肩を組み合っているキリングループのメンバー

海外のプロダクトをそのまま持ち込むのではなく、キリングループが伴走して国内展開を行う意義とはどこにあるのでしょうか?

金子

デバイスを直訳して輸入販売するだけでは、日本の生活者の日常に根付かせることはできません。日本には独自の食文化や生活リズムがあり、健康に対する意識や価値観の醸成フェーズも海外とは異なります。だからこそ、日本の市場や生活者を深く理解している私たちがスタートアップのメンバーたちと一緒に議論を重ね、日本の生活者が無理なく日常に取り入れられるような体験に落とし込み、コミュニケーションを徹底的に行っています。出資して見守るだけではない、事業化に向けて共に走り抜く「社会実装力」こそが、キリングループの強みだと思います。

個別化ヘルスケアを進める上で、キリングループならではの最大の強みはどこにあると考えていますか?

金子

大きく2つあります。1つ目は、長年の発酵・バイオテクノロジー研究やヘルスサイエンス領域によって培われた「科学的な根拠と知見」です。そして2つ目は、飲料をはじめとする食を通じて、長年にわたり広く多くのお客様と接してきた「生活者視点と日常の接点」を持っていることです。

テクノロジーで体内のコンディションが可視化された後、じゃあ何でケアするのか。キリングループには、長年培ってきた食や飲料、サプリメントという具体的な選択肢がすでに揃っています。「可視化して終わり」にするのではなく、その人の状態に合わせた日々の食や習慣までを一貫して提案・提供できること。これこそが、キリングループにしかできない最大の強みだと思います。

オフィスチェアに座り前を見て話す金子裕司

新規事業をゼロから立ち上げるだけでなく、外部の優れたパートナーと組んで事業化を目指す手法も、イノベーションを柔軟に生み出すために必要なのですね。

金子

そう思いますね。実は私自身、過去に社内でベンチャー事業を立ち上げ、最終的に事業をクローズさせた苦い経験があって。当時は本当に悔しかったですが、キリングループという会社は一度の失敗で終わらせず、その経験を糧にして次の新しい挑戦の機会を与えてくれる風土があります。自社でゼロからすべてを作り上げることだけに執着する必要はありません。世界中にある優れた技術やアイデアを見つけ出し、自社の強みと掛け合わせて素早く社会に届けるアプローチも、立派なイノベーションの形です。自社開発の枠にとらわれず、お客様にとって真に価値のある選択肢を届け続ける姿勢を大切にしたいと思っています。

閻

新事業開拓室に異動して驚いたのは、メンバー全員が「大企業のパーツとして働くのではなく、自分たちが会社と社会の未来を引っ張っていくんだ」という強い熱量を持って仕事に取り組んでいることでした。この「Lumen」の挑戦を成功させ、社内にも「もっと新しいことに挑戦しよう」という大きな波を起こしていきたいですね。

オフィスチェアに座りながら会話する閻珒

世界のCSV先進企業へ。キリングループが健康領域で届ける真価

オフィスの窓から見下ろす東京の風景

ヘルスサイエンス事業を通じて、キリングループが目指すCSV(Creating Shared Value)とは、どのようなものなのでしょうか。

金子

私たちはこれまで、「免疫」という領域で指標づくりに力を入れてきました。免疫が生命活動を支える「守りの基盤」だとすると、代謝は食事や運動と深く関わりながら、日々の活動を支える「攻めの基盤」なんです。両方をケアできるようになれば、より前向きにアクティブな人生を送れるようになる。「Lumen」は、その攻めの基盤づくりの一歩目だと思っています。こうした健康課題への取り組みを通じて、社会に価値を届けながら事業としても成長していく。その両立こそが、私たちが目指すCSVの形だと考えています。

津川

サプリメントやデバイスを売って終わりという単発の関係ではなく、テクノロジーを活用してお客様一人ひとりの状態を長く深く理解し、寄り添い続けられる関係性を築いていきたいと考えています。今回は「Lumen」というウェルネスデバイスを一つのきっかけとしていますが、今後もデジタルやテクノロジーを活用したさまざまな挑戦を仕込んでいます。国内にとどまらず、グローバルな視点も含めて、一人ひとりが自分に合った健康習慣を日常の中で前向きに実践できる社会を実現していきます。

最後に、健康領域からキリングループはどんな価値を世界に届け、どんな「次のキリン」をつくっていきたいと考えていますか?

金子

私たちが最終的にお届けしたいのは、「科学的根拠を大切にしながら、一人ひとりに寄り添う健康」です。世の中にはさまざまな健康情報やサービスが存在しますが、キリングループというブランドを信頼して手にとってくださるお客様に対して、私たちなりの確かな価値を届け続けることが私たちの責任だと考えています。我慢や努力に頼る健康から、「自分らしくいきいきと生きるため」に日々の変化を楽しむ健康へシフトしていきたいですね。そのために「Lumen」を出発点として、これからも人と技術の力で一人ひとりが自分に合った健康習慣を見つけ、続けていくことを支える新たなイノベーションを起こしていく。そうした挑戦を重ねながら、健康という領域から「次のキリン」をつくっていきたいと思います。

オフィスの廊下で代謝スコアを共有する3人
クレジット
Photographer
Masahiro Shimasaki
Interview & Text
Maki Funahashi
Editor
Ryo Hasumi
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