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次のキリンが、見えてくる
人・組織

ビジネススキルの寿命が縮む時代に、人材をどう育てていくか。人材育成・組織づくりのプロとキリンが探る人材育成の現在地(1/3)

  • キリングループ
  • 対談・鼎談
  • リーダーの視点
オフィスを背に並んで立つ坂井風太と浅井隆平

多様な分野で活躍するゲストとの対話を通して、キリングループが向き合う社会課題について考えを巡らせていく連載「キリンの宿題」。社会から求められる役割とキリングループが考える未来を交差させながら、新たな視点や気づきを探る企画です。

人材育成や組織づくりのプロ、坂井風太氏とキリンホールディングスで人材育成を担う浅井隆平が、変化の波に飲まれず、自分らしく歩みを進めるためのスタンスについて語り合った様子を3回連続でお送りします。

今回は、変化の早い社会でビジネスパーソンはいかにして成長し続けられるのかを考えていきます。

坂井 風太(さかい・ふうた)

株式会社Momentor 代表取締役社長

早稲田大学法学部卒業後、2015年DeNAへ新卒入社。旅行事業部への配属後、ゲーム事業部、小説投稿サービス「エブリスタ」に異動。2020年にエブリスタ代表取締役社長に就任。M&Aや経営改革などを行う一方、DeNAの人材育成責任者として人材育成プログラムを開発。2022年に株式会社Momentorを設立し、組織効力感や心理学をもとにした人材育成と組織基盤構築の支援を行っている。

浅井 隆平(あさい・りゅうへい)

キリンホールディングス株式会社 人財戦略部 人財開発担当 成長支援チーム 主査

大学卒業後、キリンビール株式会社に入社し営業を担当。横浜赤レンガや震災復興支援、地域活性化プロジェクトに携わり、ホップを活用した街づくりやビアカルチャー推進に貢献。2021年より愛知支店長として営業チームを統括。2023年からはキリングループの人材育成を統括し、成長支援プランの戦略立案・実行を担う。

AI時代に求められるのは「自分はここで何をやりたいのか」

語り合う坂井風太と浅井隆平

世の中の変化が速くなり、何をもって「成長」と呼ぶのかが揺らいでいます。新しいことを学んでも、また次の変化がやってくる。「成長できているのだろうか」と焦りや不安を抱えるビジネスパーソンは多いと思います。昔と今とで成長するために必要なことは、変わってきていますか?

坂井

変わりましたね。成長というと、「できることを増やす」と考えがちですが、そこが少し怪しくなってきています。というのも、せっかく身につけたスキルが古くなるスピードが今はびっくりするくらい早いんですよ。少し前なら「データを引っ張ってきて分析できます」と言えば、それだけで立派な武器になりました。でも今は「それ、AIでよくない?」で終わってしまいます。事業計画のシミュレーションをつくるとか、資料をきれいにまとめるといったスキルも今はAIで代替できてしまう。

たとえば、人の力を「アプリ」と「OS」に分けて考えるとわかりやすいのですが、アプリは分析や資料作成のような個別のスキル、OSはその土台にある考え方や姿勢です。今起きているのは、アプリ的な能力がどんどん機械に奪われている、ということ。だから、その下にあるOSをどう成長させるかが大事になってきたと思います。

そのOSというのは、いわゆる「人間力」でしょうか?

坂井

そう言いたくなるのですが、「人間力を成長させましょう」と言われても、じゃあ明日から何をすればいいの?となりますよね。だから僕は、なるべく具体的な言葉にしています。

どうするのかというと、「人間力とは何か」を分解していくんです。そこから仮に「謙虚さ」に辿り着いたとしましょう。でも「謙虚さ」もまだ抽象的なので、もう一段具体化にすると、「誰からでも、何からでも学ぼうとすること」といった表現になる。さらにいえば、相手の良い点を見つけて、「◯◯さんがいるだけで場が和むと感じているのですが、どういう点に気を付けているのですか?」と聞いてみる。そこまで噛み砕けば、日々の行動に落とし込めますよね。そうやってOSにあたる部分を具体的な言葉で捉えていくことで、明日から意識して実行しやすくなります。坂井の研修で、理論と口癖をセットにしているのですが、それは点検性と実効性を上げるためです。

たしかに、そこまで具体的だと自分でも点検できますね。浅井さんは人財戦略部にいらっしゃいますが、人材に求められるものが変わってきたなと感じる場面はありますか?

浅井

ありますね。変わっていくなかでも最後に残るのは、「この会社で自分は何をやりたいのか」を描く部分なのかなと思っています。AIにできることが増えても、そこは人にしかできません。そして、人がやるから面白い。その重みはこれからますます増していく気がしています。

実は私も坂井さんの人材研修を受けさせていただきまして。そのときにすごくいいなと思ったのが、新しい知識を詰め込むのではなく、一度立ち止まって自分は何を大事にしているのか、そもそも自分って何者なんだろうと考える時間を得られたことでした。そのうえで、自分らしさを生かしてこの会社で何を成し遂げたいのかを、最後は自分の言葉にしていくんです。

これまでは、惰性でも経験を重ねればそれなりに成長できた面はあったと思うんですよね。でもこれからは、「自分はここで何をやりたいのか」がはっきりしている人ほど、その人にしかできない仕事をつくっていけるのだと実感しました。

坂井

今の浅井さんのお話、核心をついていると思います。AIは、ものすごい速さで答えを出してくれます。でも、「こういうものがあったら、あの人が喜ぶんじゃないかな」と最初に思いつく起点は人にあります。最初のドミノを倒すのは人間なんです。そのあとにAIを使ってもいいし、使わなくてもいい。でも、誰がどう喜んだら自分もうれしいのか、という気持ちだけは、人の中にしかないんですよね。

だからこれからは、「何ができますか」と同じくらい、「あなたは何がしたいんですか」を聞かれる時代になるのだと思います。

「応援してるよ」は言える。その先で、手を貸せるか

真剣な表情の坂井風太

自分起点で「これをやりたい」という思いが芽生えても、実際に仕事で形にするとなると、一人では限界がありますよね。

坂井

新しい挑戦をしている人を見ていても、たった一人で「これをやりたい」という火種を守り続けるのはかなりしんどいと思います。

そういえば、以前、僕が担当したキリングループの研修で、新規事業がうまくいかなかった経験を話してくれた方がいました。そうしたら周りの人たちが「大丈夫、ナイスチャレンジですよ」「次はこうしてみたらいいかも」と、自然に声をかけ合っていて。挑戦の火が消えないように、みんなで風よけになっている感じがして、いい光景だと思いました。

浅井

キリングループは、誰かが「こんなことやりたいんです」と言ったときに、「それいいね!」と言ってくれる人は多いかもしれませんね。

でも、「いいね」と褒めることと、本当にその人に伴走して「一緒に手を動かす」ことの間には、実は分厚い壁がある気がしていて……。

坂井

その壁は、たしかにありますよね。「応援するよ」と言うだけなら、自分のリソースを差し出さずに「いい人」のポジションを取れるから、コスパよく「いっちょ噛み」できるんですよね。

でも、本当に大切なのは、「応援するよ」のあとの言葉であり、「具体的に僕はこの部分で手を動かせるけど、どう?」とまで言えるかどうか。たとえ小さなことでも、自分の手足を差し出す。それだけで、相手にとっての価値も、その場の熱量も大きく変わってきますから。

そして、そうやって他人のために動いたことって、巡り巡って絶対に自分に返ってくるんです。「情けは人のためならず」なんていいますよね。返してくれるのはその相手じゃないかもしれないし、ずっと先かもしれないけれど、確実に自分の「OS」の力になっていく。だからこそ、口先だけの「いい人」で終わらないスタンスが大事なんだと思います。

石橋を叩きすぎて、火種が消える。その正体は「人間病」

話す浅井隆平

「一緒にやろう」となっても組織の中で進めるとなると、また別の難しさがある気がします。

浅井

そうなんですよね。企画の最初の段階では「いいね!」と言ってくれていた人たちが、いざ「じゃあ具体的に進めましょう」となった瞬間に、急にみんなで石橋をガンガン叩き始めるということもよくあります(笑)。「本当に大丈夫なのか」「リスクの洗い出しは?」「経営陣にどう説明するんだ」と。

そうやって四方八方から慎重論を浴び続けているうちに、最初に「やりたい!」と言った人の心がポキッと折れて、せっかくの火種が消えてしまう。慎重になること自体はもちろん必要ですが、なぜ人はここまで失敗を怖がってしまうんでしょうね。

坂井

この現象を「大企業病」なんて呼ぶこともありますが、僕は「人間病」だと思っているんですよ。人間は本能的に不確実なものが嫌いです。太古の昔は「何が起きるかわからない状態」というのは死に直結していたので、安定させたいし、先が読めないリスクは避けたい。生き延びるための防衛本能としてはきわめて合理的です。でも、いざ新しい挑戦をしようとするときには、その反応が一番のブレーキになってしまう。

しかも、会社という場所は、その本能がふくらみやすいんですよね。だから、大企業だから慎重なんじゃなくて、人間が集まると自然とそうなる。そうやって強まっていくものをどうやって抑えるかがすごく大事なんだと思います。

浅井

なるほど。会社が「もっと挑戦してください」とスローガンを掲げても、なかなか変化が起きないのには、そうした理由があるのかもしれませんね。

そう考えると、本人の気持ちだけでは足りない。周りで一緒に走ってくれる人も、背中を押す仕組みも、セットで揃えていく必要がありそうです。だからこそ、経営陣を含めたリーダー自身が、「応援してるよ」だけではなく、誰かの挑戦を本当の意味で応援している姿を見せなきゃいけないのかもしれませんね。

「やらない理由」に負けない、自分に効く言葉を持つ

浅井隆平を前に話す坂井風太

自分にブレーキがかかったとき、個人としてはどうすればいいのでしょう。

坂井

思い切って踏み出せない理由は、人によって全然違います。「筋を通さないとまずい」という理屈で止まる人もいれば、「そこまでコストをかけたくない」という人もいる。「これを言ったら、周りから叩かれるかもしれない」と思って黙る人もいる。

だったら、そのブレーキを外す言葉も人それぞれのはずです。ですから、「こうしてブレーキを外してください」という正解を提示するのではなく、自分に合う言葉を探してもらうほうがいいと僕は考えています。

坂井さんご自身は、どんな言葉を持っているんですか。

坂井

1つ目は、「最悪の場合、どうなってしまうんだろう?」と考えること。ワーストのリスクを計算してみて、「死ぬわけじゃないし、致命傷にはならない」と思えたら、「じゃあやろう」と決められるんです。

2つ目は、「お世話になっている人のことは絶対に裏切らない」。どれだけ忙しくても、どれだけ大変でも、そこだけは守っています。

3つ目は、先ほどから同じ話ばかりで恐縮ですが、「口だけで応援するダサい人には絶対になりたくない」ですね。抽象化すると「自分のなりたくない像」を明確にすることで、「これは自分らしくないな」と気づき、行動を変えることができます。

「コスパ的にどうか」とか「これ言ったら角が立つかな」とブレーキがかかりそうになったときに、この3つを使い分けて判断するようにしています。

浅井

自分なりの処方箋を持っておく、ということですね。

坂井

そうです。僕はそれを「コスパの谷を越える言葉」と呼んでいます。目の前の損得だけで計算したら、「別にやらなくていいじゃん」で終わることってたくさんあるじゃないですか。それでも動き出せる理由を自分の中に持っておく。自分軸であれば「私はこういう未来をつくりたい」「死ぬときに後悔したくない」。他人軸だと「お世話になった人は絶対に裏切りたくない」「自分の子どもに見られて恥ずかしい仕事の仕方はしたくない」といったように、これなら損得を超えられるという自分を突き動かす言葉です。

人間は不確実なものを怖がるし、コスパも気にする。それ自体は生き延びるためには有利な本能ですから、消えないと思います。でも、幸せに生きるとか、新しいものを生み出すという場面では、どうにも不利に働いてしまう。だからこそ、自分にとってリアリティのある、コスパの谷を越える言葉をひとつ持っておく。変化のなかでも一歩を踏み出し続けるために、僕はそれがすごく大事だと思っています。

第2回につづく:公開予定11月4日

クレジット
Photographer
Oota Taro
Interview & Text
Yoko Sueyoshi
Editor
Ai Hanazawa

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キリンの宿題

キリングループが、これからの社会で向き合うべきさまざまな課題。その道の専門家とともに考え、キリンだからこそ果たせる役割を探ります。

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