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東北産ホップとともに。キリンビール仙台工場が育む地域との共創

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「一番搾り とれたてホップ」の仕込釜に凍結ホップを投入する久保田工場長

世界各地にあるキリンの拠点で、仕事に向き合う仲間たちの姿を追う本連載「仲間がいる街へ」。第1回では宮城県仙台市にあるキリンビール仙台工場を訪れました。

仙台工場では、岩手県遠野市をはじめとする東北産ホップとともに、長い時間をかけて地域とのつながりを育んでいます。東北産ホップという資源と、それを支える人たち。仙台工場が東北で紡いできた地域との関係と、仲間たちの姿をたどります。

60年を超えるキリンと遠野の歩み

キリン仙台工場敷地内を走るキリンのラッピングバス

2026年9月9日。キリンビール仙台工場で「キリン一番搾り とれたてホップ生ビール(期間限定)(以下、一番搾り とれたてホップ生ビール)」の仕込式が行われました。「とれいち」の愛称を持つこのビールに使われるのは、岩手県遠野市で収穫されたばかりのホップ。その年の香りをまとったホップを仕込釜に投入するイベントです。
場内には、遠野市長や遠野ホップ農業協同組合の組合長をはじめとする関係者、そして取材陣が続々と集まってきました。

「一番搾り® とれたてホップ」の仕込式に参加する関係者

式の始まり。仙台工場でこの春から工場長を務める久保田聖悟は、次のように語りました。

「ホップはビールの魂です。遠野の農家の方々が手間暇をかけて育てたその魂を、私たちの手で釜に入れる。関わる方すべての思いを乗せて、今年も『とれいち』を造ります」(久保田)

キリンビール仙台工場は1923年に仙台市小田原で操業を開始、2023年に100周年を迎えました。その歩みの中でも特徴的なのが、1963年に始まった、遠野のホップ農家との契約栽培。以来、60年以上にわたってキリンビールと遠野市は深い関係を結んできました。

キリン仙台工場内の様子

しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。

ひとつは、遠野のホップ農家の減少。遠野は長年にわたり国内有数のホップ産地として発展してきましたが、輸入自由化による海外産ホップの流入や、後継者不足の影響で、農家数は減少の一途をたどっています。

2011年3月11日に発生した東日本大震災も大きな試練でした。海岸からほど近い場所にある仙台工場では、屋外設置のビール貯蔵タンクが15本のうち4本倒れるなど甚大な被害を受け、一時は工場の存続も危ぶまれました。

それでもキリンビールの仙台工場は、今日に至るまでビールを造り続けてきました。その歩みを支えてきたのは、キリンと地域の人々のつながりです。キリンの仙台工場を舞台に挑戦を続けてきた、仲間たちの素顔に迫ります。

東北産ホップを未来へつなぐ「一番搾り とれたてホップ生ビール」

ビールの仕込釜に凍結ホップを投入する背中
乾杯の挨拶をする遠野ホップ農業協同組合の組合長・安部純平さん

遠野の畑では今、生産者の高齢化と担い手不足が大きな課題になっています。遠野ホップ農業協同組合の組合長・安部純平さんは、現場の状況を次のように語ります。

「生産者が高齢化しており、栽培面積をギリギリ維持している状況です。キリンや遠野市の地域おこし協力隊の方にも加わっていただきながら、現状をかろうじて保っています」(安部さん)

仙台工場で遠野のホップ生産現場連携を担当する髙橋直行

仙台工場で遠野のホップ生産現場との連携を担当する、岩手ホップ管理センターの髙橋直行は、「新規就農者を迎えるだけでなく、ホップ栽培で生活が安定する環境まで整えることが重要」と話します。そのためにはホップ収穫量の安定が鍵となるため、新しい肥料の試験導入なども実施。遠野のホップ生産現場を盛り上げるために力を尽くしています。

髙橋は、ホップ畑で農家の方とともに過ごす時間が、充実感をもたらしてくれると話しました。

「ホップ農家の皆さんが、寒い日も暑い日も変わらず畑に立ち、丁寧にホップを育てている姿を見ると、自分も頑張らなくてはと刺激を受けます」(髙橋)

遠野のホップ畑で収穫後に乾燥した乾燥ホップ

髙橋が目指すのは、遠野や日本のホップ農家の未来に向けた、国産ホップの価値向上です。

「国内のビール製造においては海外からの輸入ホップを使うことがほとんどで、世界的に見ると国産ホップの生産量はごくわずか。しかしクラフトビール人気の高まりを受けて香りの良いホップに注目が集まっています。遠野には長年培われてきた栽培技術と、生産者の皆さんが大切に守り続けてきた産地があります。その価値をしっかり磨き、伝えていくことで、日本産ホップの魅力をより多くの方に知っていただき、将来的には海外でも評価される存在になってほしいと思っています」(髙橋)

笑顔で話をしている「一番搾り® とれたてホップ」醸造責任者 香取七奈

また、生産者の方々の思いを胸に、「一番搾り とれたてホップ生ビール」を造るのが醸造責任者の香取七奈です。「とれいち」の醸造責任者は、仙台工場の中では若手の登竜門ともいわれるポジション。香取自身も担当になると聞いたときは「とてもうれしかった」と振り返ります。

収穫前の8月には自らホップ畑を訪れ、農家の方と直接言葉を交わした香取。

「“今年はこんなことが大変だったんだよ”というお話を聞くと、暑い日も雨の日も手間をかけて育ててくださったホップを、ちゃんとおいしいビールにしなければ、という使命を強く感じます」(香取)

「一番搾り® とれたてホップ」に使用する凍結ホップ

ホップの香りをダイレクトに表現する「とれいち」の製造では、ホップは収穫してすぐに急速冷凍し、旬の香りを閉じ込めます。通常の製造フローとは違ってホップが自動搬送されないため、汗を流しながら一度に470kgものホップを釜に入れていく重労働が必要になりますが、「その分、思いが詰まった商品になる」と香取は話します。

遠野のホップ畑の様子

2026年のホップは夏場の比較的涼しい気候と適度な降雨に恵まれ、遠野で栽培されているホップ品種「IBUKI」ならではの、爽やかでフルーティーな柑橘系の香りが際立っているそう。毎年の香りの違いもあって、「とれいち」にはその発売を心待ちにするファンも少なくありません。

「一番搾り® とれたてホップ」のボトルと原材料となるホップや麦芽

「東北のお客様に長く親しまれている」と久保田工場長が話すように、「とれいち」は遠野という街や東北という地域と深く結びついたビールです。「一杯の後ろには、畑で実際に育ててくださる方々の努力があります。飲むだけで終わらず、そうした日本産ホップの魅力や地域とのつながりまで感じていただけたらとてもうれしいです」と香取は話しました。

未来のタネを育む、地域の学生へのキャリア教育

地域の未来を支えていくうえで、ホップ栽培のような産業を守ることも重要ですが、同じくらい大切にしているのが人を育てることです。その考えのもと、キリンビール仙台工場が2019年に始めたのが、20歳以上の大学生・大学院生を対象としたキャリア教育でした。

キリン仙台工場のキャリア教育に参加する東北大学と宮城大学の学生

仕込式の当日、真剣な表情で現場を見届ける学生たちの姿がありました。このキャリア教育は、当初、東北大学の留学生に、工場見学を通じて学びを届けるプログラムでしたが、コロナ禍を経た現在は、地元の東北大学と宮城大学の学生を対象に、「一番搾り とれたてホップ生ビール」がお客様のもとへ届くまでの流れをたどる、6日間のインターンシップへと形を変えています。

キリン仙台工場でキャリア教育を担当する佐久間裕加

このプログラムを担当する佐久間裕加は、キャリア教育の意義をこのように語ります。

「ビール製造の一連の流れを学べるほか、研究職から広報、営業など多様な専門性を持つ人々が連携し、製品がお客様のもとに届く過程を見てもらうことができます。また、遠野との関わりなど地域とのつながりを知ってもらうことで、ビール文化の魅力を感じていただくだけでなく、多様なキャリアや働き方を想像する機会を提供できると考えています」(佐久間)

プログラムの2日目には、遠野のホップ農家を訪問。実際の生産現場を見学するとともに、国産ホップ産業が抱える現状と未来に向けた取り組みを知る機会となりました。

インタビューに参加する東北大学と宮城大学の学生

「ホップを乾燥させる施設は、窓を締め切らなければいけないためとても暑い。生産者の方にしかわからない苦労を感じられて良かった」という声を上げた学生も。また、岩手県出身のある学生は、「農地はあるのにうまく使えていないところもある。しかし裏を返せば空いている土地は資産であり、活用法次第で未来を切り拓いていける」と学びを語りました。

佐久間は2025年に入社した、社会人2年目の社員です。「学生との距離が近いからこそ、自分自身の経験が伝わりやすい」と話す一方で、「学生が本当に求めていることを汲み、プログラムに反映させていくのは難しい」とも打ち明けます。

昨年参加した学生からのアンケートでは、「食品・飲料の産業に漠然とした興味はあるが、自分が実際に何をしたいのか、何が向いているのかイメージが持ちにくい」という声も寄せられたそう。そこで今年はキャリアパスを示せるようなプログラムを検討しているといいます。

「学生の方から直接、“こういうところが楽しかったです”といったリアルなフィードバックをもらうときが一番うれしい。学生たちが学びを得て、成長した姿を見ることが仕事のやりがいです」(佐久間)

地域の未来とホップ産業のタネを育てるため、試行錯誤を続けています。

これからも、地域とともに

「一番搾り® とれたてホップ」の仕込釜に凍結ホップを投入する久保田工場長

仕込式の中で、久保田工場長は次のように語りました。

「震災から半年後に仙台工場が稼働を再開したとき、最初に仕込んだのが『とれいち』でした。私たちにとっても、特別な思いのあるビールです」(久保田)

未曾有の大震災から4カ月後、キリンは東北地方の復興支援活動として「復興応援 キリン絆プロジェクト」を開始しました。3年間で約60億円を拠出し、農業や水産業への支援を行ったほか、仙台工場のスタッフを中心としたボランティア活動も展開。そして東北のお客様に長く親しまれてきたビールである「とれいち」をいち早く出荷し、復興へ向かう地域とともに再出発しました。仙台工場は、地元の復興とその先を見据えて歩んできました。

一番搾り®︎を片手に話す久保田工場長

今、地域が直面しているのは人口減少という課題です。「東北のどの企業の方と話していても、人口減少は切実です。東北は全国的に見ても、特にその傾向が強いと感じています」(久保田工場長)

東北産ホップという「資源」と、キャリア教育で「人」を育てる取り組みは、いずれも地域の活性化というキーワードでつながっていると久保田は話します。そうした取り組みのひとつが、“ホップの里からビールの里へ”を合言葉に、遠野市とキリンビールが2007年から続けてきた「TK(遠野×キリン)プロジェクト」です。遠野産ホップを使用したビールやビールに合う遠野産食材の開発・PR、ホップ畑見学をはじめとするツーリズムの展開など、ビールを軸にしたまちづくりを推進してきました。2015年に初開催した、ビールと遠野の旬の食材を楽しめる「遠野ホップ収穫祭」は、2026年の来場者数が17,000人を突破。ビールの里としての認知も広まり、若手のホップ生産者やブルワーの移住者も現れています。

久保田は、昨年は副工場長を務めていました。副工場長時代は工場の年度計画を達成する仕事が中心だった一方、工場長になると「10年先を見据える」ことが仕事だといいます。「今はホップがある。では10年先にはどんな価値をつくるべきか」。そう自らに問いながら、「仙台工場が地域の方々になくてはならない存在だと思ってもらえるように、地域を元気にする活動をしていきたい」と展望を語りました。

キリン仙台工場の社屋

最後に、キリンの仲間たちが働く仙台は、どんな街だと考えているのか。その質問をそれぞれに投げかけてみると、驚くほどみな同じ答えが返ってきました。それは、「人が温かい場所」だということです。

久保田や髙橋が「人が優しい」と言えば、佐久間も「人々のつながりが深い街」だと話します。香取は「町中華で隣の席の方が“これ余ったから食べて”と言ってくれたり、市場で海鮮丼を食べていると、通りすがりの方が“この漬物食べきれないからもらって”と声をかけてくれたこともあります」という微笑ましいエピソードを語ってくれました。

遠野の食材や名産品
一番搾り®︎の入ったグラスを持つ手元

今年の仕込式も無事に終わり、毎年恒例の懇親会が始まりました。遠野の食材を使った料理とともにキリンのビールを楽しむ仲間たちには、笑顔が溢れています。一粒のホップ、一滴のビールが、人々の輪をつなぐ。その背景には、どんな日も労を惜しまずホップを育て上げた生産者の努力や、ビール造りに携わる工場や地域の仲間たちの、情熱があります。

遠野のホップ畑とビール

ビールを造るだけでなく、ホップ生産への関わりや地域のキャリア教育への参加など、地域とのつながりを大切にした取り組みを続けている仙台工場の仲間たち。そこには、ビールを通じて地域の暮らしに楽しみを届けたいという思いがあります。

ビールが地域の文化として根付き、日々の楽しみや地元への誇りにつながっていく。仙台工場では、そんな仕事をこれからも地域とともに続けていきます。

クレジット
Photographer
Ayumi Mineoka
Interview & Text
Bunji Yatomi
Editor
Ai Hanazawa

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